昨年5月から古木洋平監督チームと始めたThrough the Window。この「窓辺」のおかげで、外に出られず人にも会いにくい時間、私は世界ともう一度繋がることができた。配信で歌っている歌には、20年以上歌っている歌や、世界中で一緒に音楽してきたお友達の歌、彼らの故郷の歴史が染み込んだ歌もある。窓辺のカウンターテーブルで、そんな一つ一つの心の中の宝物について思ってみたり、今だからこそ思い出す旅の話も落ち着いて書いてみたりしようと思う。
新年1ページめは、私の歌の原点の「即興」について。
即興で歌を紡ぐことは、物心ついた頃、学校への雪深い5キロの道のりを歩きながら培った。木立に射す光の美しさや白銀にきらめく雪、春を知らせる「ばっきゃ」(フキノトウ)の花、カッコウの声・・・自然が教えてくれた。冷たいが爽やかな空気に声を発した時の気持ちよさったらない。そこで好きなように言葉を紡ぎ、へんてこな歌を作っては忘れて歩いた。
だから、「即興」という言葉自体が不似合いな感じもする。スキャットのようにテクニカルなわけでもなく、もっと根源的で、私の中心からやってくるものだ。ポルトガル語は一番出てきやすい。きっともうずっと歌ってきているから、勝手に出てくる。ロマンティックで詩的だからすぐ歌になる。
共演者の音から触発されるように、音がメロディになる、ことばになる、歌になる。しだいに、音を聴く前から、同じ波動を感じているように一緒にひろがって、目の前に未知の空間ができていく。ピンと張りつめた糸のように音だけに集中して、やがて恍惚とする瞬間がくる。その時、私はもう私でなくて、私が歌っている感覚もない。
ひろがっていく歌の中にいろいろな記憶やイメージが重なっていって、宇宙空間に浮かんでいるような浮遊感を感じる。そしてつつがなく歌が終わる時、とても満たされて清らかな心地になっている。歌を歌うことは、自分流の神事だ。
今度配信する「秘密の花園」で林正樹さんと生まれた歌は、驚くほど神がかっている!自画自賛と言われても仕方がないけど、林さんの音の響きに満たされて、私はトランスに入って別世界に行っている。こんな歌が紡げて、その瞬間が映像に残っている、それだけで生きててよかったと思うし、音楽とともにあることに感謝する。
パンデミックでリアルなライブが少なくなっているけれど、窓辺からの配信は、映像ならではの魅力を追求したいと思う。特に「秘密の花園」は、ミュージシャンとの親密なセッションで生まれた音の時間を、秘められた花園の扉を開けるようにドキドキしてご覧いただけたらいいな。
2021年、窓を開け放って、清々しい空気を吸い込んで、この時代を生き抜くための力を得られますよう。しばらくリアルな旅や祭はできなさそうだけど、心だけは大空に羽ばたいていけますよう。
窓辺で抱擁を交わし、みなさんと時間と音楽を分かち合えますように。
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